台所に立って、今晩のおかずをもう一品多く作るべきか迷う。腎臓病の食事に付き合うようになってから、そんな時間が増えたという声をよく聞きます。全部を分けるのはしんどい。かといって、分けなくて本当に大丈夫なのかも分からない。
この迷いを毎回ゼロから考え直さなくて済むように、料理を見るときの物差しを3つだけ決めておくという方法があります。物差しさえ決まれば、あとは目の前の料理をそこに当てはめるだけです。
分けるかどうかを決める、3つの物差し

たんぱく質量・味つけの濃さ・下ごしらえの手間。この3つを見れば、たいていの料理は「そのまま」「一部だけ」「別に」のどれかに落ち着きます。
たんぱく質量。腎臓病では、進行度によって1日にとれるたんぱく質の目安が決まっています。日本腎臓学会のガイドラインでは、G3aの段階で標準体重1kgあたり0.8〜1.0g、G3b以降は0.6〜0.8gが目安とされています。主菜1品にたんぱく質がぎっしり詰まっていると、それだけで1食分、下手をすると1日分の枠の多くを使ってしまいます。
味つけの濃さ。食塩相当量の目安は1日3.0g以上6.0g未満です。家族用の味つけをそのまま使えるかどうかは、この枠に対して料理1品がどれだけの割合を占めるかで変わってきます。
下ごしらえの手間。カリウムの制限がある段階では、野菜を茹でこぼす・小さく切ってから水にさらすといった一手間が必要になることがあります。この手間が家族の分と共通でできるか、本人の分だけ余分にかかるかで、作業の負担はかなり変わります。
タイプA|そのまま取り分けられる料理

たんぱく質が少なめで、味つけも1品では枠を大きく超えない料理です。芋や野菜でかさを増やし、肉や魚は香りづけ程度にとどめた主菜が、このタイプにあたります。
実例として、マーボー春雨を見てみます。
◆ マーボー春雨の栄養価(1人分の目安)

マーボー春雨|長いもを千切りにして春雨のような食感に仕立てた一皿 ※画像はイメージです
長いもを千切りにして春雨のような食感を出し、豚肉は40gだけ使います。たんぱく質は1人分でおよそ4.0g。家族が食べる分と同じ鍋・同じ味つけのまま、盛る量だけそろえて出せる料理です。ただし食塩相当量は1.7gあり、1品としては軽くありません。この日の他の料理をだし中心の薄味にするなど、1日の中で塩分の帳尻を合わせる意識は必要です。
タイプB|主菜だけ別仕立てにする料理

たんぱく質源そのものは家族と共通でも、味つけ前の状態なら分けられる料理です。焼き魚や煮魚、肉料理などがここに入ります。
たとえば魚を焼くなら、味をつける前に切り身を取り分け、本人の分だけ小さめに、薄味に仕上げます。家族の分はいつも通りの大きさ・濃さのままでかまいません。分けるタイミングは「味をつける前」の一点だけ覚えておけば十分です。
タイプC|別メニューが必要な料理

たんぱく質や塩分が、具や衣、スープそのものに溶け込んでいる料理です。から揚げや餃子は、衣と具そのものがたんぱく質と脂質のかたまりで、あとから量を減らしても中身の濃さは変わりません。カレーやラーメンのように、鍋一つ・スープ一つで全体の味が決まってしまう料理も同じです。
こういう料理は、無理に取り分けようとせず、本人用だけ別に一品用意したほうが、結果として手間も気持ちも楽になります。
3タイプを並べて見る
| 観点 | A:そのまま取り分け | B:主菜だけ別仕立て | C:別メニューが必要 |
|---|---|---|---|
| たんぱく質量 | 少なめ(かさ増しが中心) | 家族と共通(量・厚みで調整) | 具・衣に凝縮 |
| 味つけの濃さ | 1品なら枠内、他の料理で調整 | 味つけ前なら調整できる | 鍋・スープ全体で決まる |
| 下ごしらえの手間 | 家族と共通でできる | 取り分けのタイミングだけ注意 | 別調理が前提 |
| 対応の仕方 | 盛る量をそろえるだけ | 味つけ前に取り分ける | 本人用を別に用意する |
場面で使い分ける

平日は、タイプAを軸に献立を組むと、作る手間も洗い物も増えません。マーボー春雨のように、家族と同じ鍋から出せる主菜を1〜2品持っておくと、毎日の判断がぐっと楽になります。
行事や来客の予定がある日は、揚げ物や鍋料理などタイプCに寄りやすくなります。
★ 行事・来客の日に、あらかじめやっておくこと
- 本人用の一品を、献立を決める段階で先に決めておく
- 作り置きできる副菜(野菜の煮物など)を1品添えておく
- 取り分け用の小さめの器を、食卓に最初から出しておく
前もって決めておけば、当日になって台所で慌てることもありません。
おわりに
3つの物差しは、覚えてしまえば毎回ゼロから迷わなくて済む道具です。今日の料理がA・B・Cのどれに近いかを見て、それに合わせて動く。これだけで、台所に立つ時間の迷いはだいぶ減ります。
全部の料理を完璧に仕分けようとしなくても大丈夫です。まずは家族と共通で食べられるタイプAの料理を一つ、今週の献立に置いてみてください。あとは料理ごとに、少しずつ物差しを当てはめていけば十分です。分け方に迷う料理が出てきたら、次の受診や栄養相談のときに、担当の管理栄養士に聞いてみてください。
免責事項・参考基準
本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供で、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。たんぱく質・食塩の目安量は腎臓病の病期や検査値によって一人ひとり異なります。食事の分け方や量の調整は、必ず主治医および担当管理栄養士の指示を優先してください。
参考にした基準・出典の系統
| 出典系統 | 内容 | 記事内の使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」(2023年版)/実務版『CKD診療ガイド2024』 | CKDステージ別のたんぱく質摂取量の目安(G3aで体重1kgあたり0.8〜1.0g/日、G3b以降0.6〜0.8g/日)、食塩相当量の目安(1日3.0g以上6.0g未満) | 「分けるかどうかを決める、3つの物差し」節 |
| 日本腎臓学会 | 腎臓病の食事療法は病期・検査値によって個別に決まるという一般原則 | 免責事項全体 |
※基準は改訂で変わることがあります。最新は公式ページを確認してください。

