「野菜を食べたほうがいいと思っていたのに、腎臓病になってからは食べ方に気をつけないといけないと言われて、何をどう変えればいいのか戸惑っています」。
外来の栄養相談でこうした声をよく聞きます。特に家族のために食事を作る方から。野菜は体にいいものというイメージがある分、「制限してください」と言われるとどう対応すればいいか困ってしまう。その気持ちはよくわかります。
この記事では、腎臓病のカリウム制限が必要な方の食事を作るうえで、「茹でこぼし・水さらしの具体的な手順」「選びやすい野菜・注意が必要な野菜のリスト」「果物やいも類の扱い」をQ&A形式でまとめました。
◆ この記事でわかること
- 腎臓病でカリウム制限が必要になる理由
- 茹でこぼし・水さらしのやり方と、どれくらい減るかの目安
- カリウムが多い野菜・少ない野菜のリスト(家族介護者向け実用情報)
- 果物・いも類の注意点
- 高血圧食との考え方の違い(逆方向になる理由)
なぜ腎臓病でカリウムを制限するのか

カリウムは野菜・果物・いも類に多く含まれるミネラルで、通常は腎臓がしっかり余分な量を尿として排出してくれます。ところが腎機能が低下すると、この排出がうまくいかなくなります。そうすると血液中のカリウム濃度が上がりすぎてしまう(高カリウム血症)状態になることがあります。
高カリウム血症は、心臓の動きに影響することがあるため、症状が出てからでは遅い場合もあります。血液検査でカリウム値が高めと言われた、または主治医からカリウム制限の指示を受けた場合は、食事での対応が重要になります。
ただし、カリウム制限が必要かどうかは腎機能の程度によって異なります。CKDの初期段階(G1〜G2程度)では制限が不要な方も多く、「全員が野菜を厳しく制限しなければならない」わけではありません。「カリウムを制限してください」という指示を受けているかどうか、まず主治医に確認することが最初の一歩です。
高血圧の場合と何が違うの?
「高血圧にはカリウムをたくさん摂るといいと聞いた」という方が混乱するポイントがここです。
高血圧ではカリウムが血圧を下げる方向に働くため、野菜・果物をしっかり食べることが推奨されます(→ 関連記事: 高血圧とカリウム|野菜・果物の上手な摂り方)。ところが腎臓病でカリウム制限が指示されている場合、同じ食品を「多く摂る」ことが逆効果になります。
★ 病態で方向が逆になる
| 病態 | カリウムとの関係 |
|---|---|
| 高血圧(腎機能正常) | 積極的に摂ると血圧低下に働く。野菜・果物を意識して増やす |
| 腎臓病(腎機能低下) | 排出しきれず血中濃度が上がりやすい。制限が必要なケースがある |
※腎臓病でも高血圧を合併しているケースは多いため、食事内容は主治医・担当管理栄養士に必ず確認してください。
「野菜がいいから食べさせよう」と善意で対応してしまうと、腎臓病の場合は逆効果になる可能性があります。
カリウムの制限量ってどのくらい?
日本腎臓学会「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」では、腎機能が一定以上低下した段階(G3b以降が目安)においてカリウムの制限値の目安が示されています。
◆ CKDステージ別カリウム制限の目安
| ステージ(GFR区分) | カリウム制限の目安 |
|---|---|
| G1・G2(eGFR 60以上) | 通常は制限不要(過剰摂取は避ける) |
| G3a(eGFR 45〜59) | 血液検査値により判断(制限が不要な場合も) |
| G3b(eGFR 30〜44)以降 | 2000mg/日以下(高カリウム血症があれば1500mg/日以下)が一般目安 |
出典: 日本腎臓学会「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」をもとに筆者作成。個別の目標値は必ず主治医・担当管理栄養士に確認してください。
1日2000mgというのが具体的にどのくらいか、少しイメージしておきましょう。ほうれん草(生)100gのカリウムは約690mgです(文部科学省「日本食品標準成分表(九訂)」)。茹でずに食べれば、一度の副菜でそれだけ摂ってしまいます。茹でこぼしをすることで、この量を抑えられるわけです。
Q1|茹でこぼしって何をどうするの?

ほうれん草のおひたし(茹でこぼし後)|葉物野菜は茹でこぼしでカリウムを減らせます ※画像はイメージです
カリウムは水溶性のミネラルです。お湯に溶け出す性質があるため、茹でてお湯を捨てることで食材に残るカリウム量を減らせます。これが「茹でこぼし」の基本的な考え方です。
★ 茹でこぼしの基本手順
-
野菜は小さく切る。切り口が多いほどカリウムが出やすくなります。
-
たっぷりの水(野菜の3倍以上を目安)でしっかり茹でる。フタをせずに、沸騰した湯で2〜3分。
-
茹でたお湯を必ず捨てる。茹で汁を使った煮物・スープはカリウムが溶け込んでいるため避けます。
-
水気をしっかりしぼってから、改めて調理します。
茹でこぼしによるカリウムの減少率は食材によって異なりますが、一般的な調理科学の知識として次のように言われています。
- 葉物野菜(ほうれん草・小松菜など): 30〜50%程度の減少が目安
- いも類(じゃがいも・さつまいもなど): 15〜30%程度の減少が目安
- 根菜(にんじん・大根など): 切り方や茹で時間によって変動
これはあくまで目安であり、切り方・茹で時間・水の量によって大きく変わります。「完全にゼロになる」わけではないので、茹でこぼし後も量に注意することが必要です。
Q2|水さらしでも同じ効果がある?
水さらしも、カリウムを水に溶かし出す方法のひとつです。ただし茹でこぼしに比べると減少率は低め。高血圧の場合と水さらしの考え方は同じですが、腎臓病のカリウム制限では茹でこぼしを優先するのが基本です。
◆ 茹でこぼし vs 水さらし
| 方法 | 効果の目安 |
|---|---|
| 茹でこぼし | 比較的高い(葉物30〜50%) |
| 水さらし | 茹でこぼしより低め |
※目安の数値は一般的な調理科学の知見をもとにしたものです。食材・調理条件によって変わります。
いも類は切る→水さらし→茹でこぼしの順に行うと、二段階でカリウムを出せます。週の初めにまとめて野菜を茹でこぼして冷蔵保存しておくと、毎日の調理が楽になります。
Q3|どの野菜を選べばいい?
カリウム量は野菜によって大きな差があります。できる限り「もともとカリウムが少ない野菜」を選ぶと、茹でこぼしの手間が減り、献立も組み立てやすくなります。
◆ 野菜のカリウム量の目安(100gあたり・生)
| 比較的少ない野菜(茹でこぼし後は使いやすい) | |
|---|---|
| 野菜名 | カリウム量の目安(生) |
| もやし(緑豆) | 約69mg |
| キャベツ | 約200mg |
| 白菜 | 約220mg |
| きゅうり | 約200mg |
| なす | 約220mg |
| 大根 | 約230mg |
| 玉ねぎ | 約150mg |
| カリウムが多い野菜(生では量に注意・茹でこぼし必須) | |
| 野菜名 | カリウム量の目安(生) |
| ほうれん草 | 約690mg |
| 小松菜 | 約500mg |
| ブロッコリー | 約360mg |
| 枝豆(冷凍) | 約490mg |
| にんじん | 約300mg |
| かぼちゃ | 約450mg |
出典: 文部科学省「日本食品標準成分表(九訂)」をもとに筆者作成(100gあたりの目安・可食部・生)。茹でこぼし後は数値が変わります。
もやし・キャベツ・白菜・玉ねぎは比較的カリウムが少なく、腎臓病食の副菜に使いやすい野菜です。ただ「量を問わず食べていい」ということではありません。
一方、ほうれん草・小松菜・ブロッコリーなどは生の状態ではカリウムが多め。必ず茹でこぼしをしたうえで量を守って使うという考え方です。「食べてはいけない野菜」ではなく、「下茹でしてから少量使う」と覚えておくとメニューの幅が広がります。
Q4|果物やいも類はどうすればいい?
カリウム制限において、果物は野菜以上に注意が必要な食品群です。果物は生のまま食べることがほとんどで、野菜のように茹でこぼして減らすという手が使えないから。そのまま食べれば、そのままのカリウム量が体に入ります。
バナナ(1本・可食部100g)のカリウムは約360mg、みかん(1個・可食部80g)でも約120mgほどあります(文部科学省「日本食品標準成分表(九訂)」)。「1日1個は体にいい」という一般的な発想をそのまま腎臓病に当てはめると、カリウムが思わぬ量になる場合があります。
果物のカリウムを減らす方法として、缶詰のシロップ漬けを「シロップを捨てて使う」方法があります。加工の過程でカリウムがシロップに溶け出しているため、生の果物より少なくなる場合があります。ただし糖分が多いため、糖尿病を合併している場合は量に注意が必要です。
いも類(じゃがいも・さつまいも・里いも)はカリウムが多めです。
◆ いも類のカリウム目安(100gあたり・生)
| いも類 | カリウム量の目安 |
|---|---|
| じゃがいも(生) | 約410mg |
| さつまいも(生) | 約480mg |
| 里いも(生) | 約640mg |
出典: 文部科学省「日本食品標準成分表(九訂)」をもとに筆者作成。
いも類は水さらしと茹でこぼしを組み合わせることでカリウムを減らせます。15〜30%程度の減少が目安ですが、茹でこぼし後でも量の管理が必要です。果物や芋類の具体的な摂取量については、必ず主治医・担当管理栄養士の指示を確認してください。
Q5|汁物のカリウムはどう考える?
野菜を入れた汁物(味噌汁・スープ)は、カリウムが汁に溶け出しています。汁を飲めば、そのカリウムも一緒に摂ることになります。
★ カリウムを増やさないための調理チェックリスト
- 野菜は必ず茹でこぼし(電子レンジ加熱はカリウムを出す効果がほぼない)
- 汁物は具材を食べて汁を残す(カリウムは汁に溶けている)
- 減塩タイプの調味料・加工品はカリウムが増える場合がある。成分表示を確認する
- スポーツ飲料・野菜ジュースはカリウムが多い場合がある
- 果物はそのまま食べるより缶詰(シロップ不使用)を検討する
たんぱく質やリンとの関係
腎臓病の食事管理はカリウムだけでなく、たんぱく質・リン・塩分も同時に管理するのが基本です。たんぱく質を制限すると副菜として野菜が増えますが、野菜にはカリウムが含まれるため、茹でこぼしを習慣にしていないとカリウムが増えてしまうことがあります。各栄養素を別々でなく全体のバランスで見ることが大切です。詳細は別記事(→ 関連記事: 腎臓病とたんぱく質|摂りすぎないコツと適量)をご覧ください。
おわりに
腎臓病の食事管理で大切なのは、「食べてはいけない」と考えすぎないことです。ほうれん草も小松菜も、茹でこぼして量を守れば副菜として使えます。まずは主治医・担当管理栄養士にカリウムの目標量を確認し、「茹でこぼしを習慣にする」「カリウムの少ない野菜を中心に選ぶ」という2つのルーティンを日常に取り入れてみてください。
食材の選び方・茹でこぼしのコツを少しずつ覚えていくことが、長く続けられる食事管理につながります。
免責事項・参考基準
本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供で、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。腎臓病(CKD)の食事療法は、そのステージ・合併症・服薬内容・血液検査の数値によって個別に決まります。カリウム制限量・食事内容の変更前には、必ず主治医および担当管理栄養士の指示を優先してください。
参考にした基準・出典の系統
| 出典系統 | 内容 | 記事内の使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本腎臓学会「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」 | CKDステージ別カリウム制限の目安(G3b以降2000mg/日以下) | 「カリウムの制限量ってどのくらい?」節 |
| 文部科学省「日本食品標準成分表」 | 野菜・果物・いも類のカリウム含有量 | 「どの野菜を選べばいい?」節 |
※基準は改訂で変わることがあります。最新は公式ページを確認してください。

