一日三度が、年に千回を超えるということ
朝と昼と夕。それを一年続けると、千回を軽く超えます。刻む、つぶす、とろみをつける。一回ずつは十分か十五分の作業でも、回数がこれだけあると、どこかで息切れします。
「手を抜いてはいけない」と思っている方ほど、抜き方が分からないまま全部を抱えてしまいます。ただ、抜いてよい場所と、抜くと響く場所は、実ははっきり分かれています。
ここでは、ある一日を朝から順に追いながら、その日のどこで力を抜けるかを見ていきます。全部を変える話ではありません。一日のうち一か所か二か所、手を離す場所を決めるための記事です。
◆ この記事で扱うこと
- 朝・昼・間食・夕、それぞれで手を離せる場所
- 作らずに栄養を足す方法と、そのときの注意点
- 一日で一品だけ手をかけるなら何にするか
- 抜いてはいけない三つのこと
朝|いちばん先に手を離していい時間

朝は、支度と服薬と身支度が重なる時間帯です。ここに調理を積むと、その日一日の余力が最初に削られます。
朝食を市販品でまかなうことに、栄養面の後ろめたさを感じる必要はありません。レトルトのおかゆ、やわらかいパンを牛乳や豆乳でひたしたもの、ヨーグルト、具の少ない汁物。これらを組み合わせれば、朝に必要なものはだいたい足ります。
朝で優先したいのは品数ではなく、水分です。夜のあいだに体の水分は減っていて、起き抜けはとくに不足しやすい時間帯にあたります。汁物でも、お茶でも、ゼリー飲料でもかまいません。むせやすい方の場合は、飲み物にとろみをつけた状態で出す形になります。
たんぱく質を一品だけ足すなら、卵かヨーグルトが手軽です。温泉卵や、電子レンジで作れる茶碗蒸し風のもので十分です。朝に手をかけないと決めるだけで、一日の調理回数が三分の一減ります。
昼|昨日の鍋から、一人分だけ先に取り分けておく

昼は、作る時間ではなく温める時間にしてしまうのが現実的です。そのための仕込みは、前の晩の調理のついでに済ませます。
夕食で煮物や汁物を作るとき、味をつける前か、つけた直後に、一人分を別の容器へ移しておきます。翌日の昼はそれを温め直すだけです。新しく火を使わない日を一日一回作れると、体感はかなり変わります。
冷凍する場合は、一食分ずつの小分けにします。まとめて凍らせると解凍のたびに全部を出すことになり、結局その手間が新しい負担になります。煮物、やわらかく煮た根菜、ひき肉のそぼろあん、おかゆ。このあたりは冷凍しても食感が大きく崩れません。
一方で、じゃがいものつぶしたものや、とろみをつけた汁物は、解凍すると水が分離しやすいものがあります。とろみは食べる直前につけ直すほうが、失敗が少ないです。
昼を丸ごと市販のやわらか食にあてる日を作ってもかまいません。宅配のやわらか食を組み合わせる考え方は、介護食の宅配という選択肢|やわらか食を続けるコツのほうに詳しくまとめています。
間食|考えずに出せるものを、決め打ちで置いておく

高齢の方の食事では、一回に食べられる量が減るぶん、間食が食事の一部になります。ただ、ここで毎回何を出すか考えていると、それ自体が疲れの種になります。
置くものをあらかじめ決めてしまうのが早いです。ヨーグルト、プリン、やわらかい果物の缶詰、栄養補助飲料。買い物のときに同じものを補充するだけの状態にしておけば、その場で悩む回数がゼロになります。
間食で気をつけたいのは、のどに詰まりやすいものです。口の中でばらけるもの、水分が少なくてはりつくもの、皮や薄い膜が残るもの。この三つは、やわらかそうに見えても飲み込みにくいことがあります。何をどう選ぶかは、高齢者の間食|栄養補給になるおやつの選び方でも触れています。
夕|一日に一品だけ、手をかけると決める

朝と昼と間食で力を抜いたぶん、夕食に一品だけ手をかけます。選ぶなら、たんぱく質がしっかり入る主菜です。
たらのような白身魚は、煮るとほぐれやすく、脂が少ないぶん飲み込むときにまとまりにくい面はありますが、煮汁にとろみをつければ扱いやすくなります。多めに作って冷蔵しておけば、翌日の昼の分にも回せます。

やわらか煮魚(たら)|煮汁ごとスプーンですくえるやわらかさに ※画像はイメージです
| すけとうだら(生) | 80g |
| かつおだし | 50ml |
| こいくちしょうゆ | 8g(小さじ1と1/3) |
| 本みりん | 6g(小さじ1) |
| 上白糖 | 3g(小さじ1) |
-
だしに調味料を合わせ、ひと煮立ちさせる。
-
たらを入れ、ふたをして弱火で7分から8分、身がほろりとくずれるまで煮る。
-
骨と皮を丁寧に取り除く。ここは面倒でも省かない。
-
煮汁ごと器に盛る。飲み込みにくい方は、煮汁に水溶き片栗粉かとろみ剤を加えてからかける。
◆ 栄養価(1人分の目安)
※1食あたりの目安です。
たんぱく質が一皿で15g近く入ります。食事摂取基準(2025年版)でのたんぱく質の推奨量は成人男性で1日65g、成人女性で50gですから、この一品で一日の四分の一前後をまかなえる計算になります。高齢の方に必要な量は体格や腎機能によって変わるので、具体的な目標量は主治医や担当の管理栄養士に確認してください。
味が濃いと感じるときは、だしを増やして薄めます。食塩相当量が1.5gあるので、汁物を同じ食事に付けるなら、そちらを薄めるか椀を小さくするほうが調整しやすいです。
一日を並べてみると、どこを抜いたかが見えてくる
ここまでの一日を、抜いた場所と残した場所で並べ直すと、こうなります。
| 朝 | 市販品を組み合わせる。水分とたんぱく質を1品ずつ |
| 昼 | 前夜の取り分けを温めるだけ。火は使わない |
| 間食 | 決めた定番を出す。その場で考えない |
| 夕 | 主菜を1品だけ作る。多めに作って翌日へ回す |
調理の回数でいえば、一日三回だったものが一回になります。減ったのは調理の手数であって、食べる量ではありません。たんぱく質は朝の卵かヨーグルト、間食、夕の主菜と、三か所に散らばったままです。水分も朝から夕まで切れていません。
抜くところを決めるというのは、手を離す場所を先に決めておくということです。その日の余力で決めようとすると、結局いつも全部やってしまいます。
ここは抜かない、と決めておく三つ

手を抜く場所を作るぶん、動かさないものもはっきりさせておきます。
かたさの段階。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食学会分類2021では、食事の形態が段階で整理されています。本人がどの段階かは、忙しさや疲れで動かしてよいものではありません。市販品を使うときも、パッケージの区分がその段階に合っているかを確認してください。
水分。食事量が減っている方は、食事から入る水分も一緒に減っています。むせを心配して飲み物を控えると、脱水のほうに傾きます。とろみをつけて出す形で、量は保ってください。
体重。手を抜いた結果として食べる量まで減っていないかは、体重で確認します。一日単位ではなく、二週間から一か月の動きで見ます。数か月かけて右肩下がりに減っているなら、食事内容を相談し直すタイミングと考えてください。服の着心地の変化や、いつもの椅子での座り具合でも気づけます。
おわりに
介護食を毎食作り続けることを、頑張りの量で測らなくていいと思います。作る側が倒れてしまえば、そこで食事は止まります。続くかたちに寄せていくことのほうが、結果として食べる量を守ります。
明日ひとつだけ変えるなら、朝です。買ってきたもので済ませる日を一日作って、その日の午後がどれくらい違うかを見てみてください。それで余力が残るようなら、次は昼の取り分けを足していけばいいと思います。
一度に全部を組み替えなくて大丈夫です。うまくいった手から、ゆっくり増やしていきましょう。
免責事項・参考基準
本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供で、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。高齢者の食事は、嚥下機能・基礎疾患・服薬内容・活動量によって適した形態や量が個別に決まります。食事形態の変更や栄養量の調整は、必ず主治医および担当管理栄養士の指示を優先してください。
参考にした基準・出典の系統
| 出典系統 | 内容 | 記事内の使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本人の食事摂取基準(2025年版)厚生労働省 | たんぱく質の推奨量(成人男性65g/日・女性50g/日) | 夕食の主菜の節 |
| 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」 | 嚥下調整食の形態区分・とろみの考え方 | とろみの扱い・抜かない三つの節 |
| 日本食品標準成分表2020年版(八訂)文部科学省 | 各食品の栄養値の根拠系統 | 栄養価グリッドの基礎 |
※基準は改訂で変わることがあります。最新は公式ページを確認してください。

