発熱で食べられない高齢者の食事|水分と栄養の優先順位

やわらか介護食

熱が出た日の夕方。用意した食事にほとんど手がつかず、口にしたのはゼリーがひとつだけ。片づけながら「このままで大丈夫だろうか」と気になってしまう。介護をしているご家族から、よくお聞きする場面です。

体調を崩している日は、いつもの献立の形をそのまま続けなくて大丈夫です。熱があるあいだに優先したいのは、品数を揃えることより、水分を切らさないことのほうです。ここでは、実際によくいただく質問を5つ並べて、順番にお答えしていきます。

◆ この記事で答えること

  • 食べたがらないときに、すすめるかどうかの考え方
  • 水分は何をどれくらい、どう飲んでもらうか
  • むせが出てきたときの水分のとり方
  • 食べられそうになってきたら、何から戻すか
  • 受診や相談を早めたほうがいい変化

Q1|熱があって食べたがりません。無理にでもすすめたほうがいいですか

無理にすすめず水分を優先

無理にすすめなくて大丈夫です。熱が出ているあいだは食欲が落ちるのがふつうで、これは体が回復にエネルギーを回している状態でもあります。一食まるごと残しても、それだけで大きく状態が悪くなるわけではありません。

ただし、置き換えられないものが一つあります。水分です。食事の量は数日ゆるめても取り戻せますが、水分が足りない状態は短い時間で体にこたえます。ここだけは、食欲とは切り離して考えてください。

順番としては、水分が先。次にエネルギー(糖質や脂質)。たんぱく質を戻すのは、食欲が戻ってきてからで間に合います。全部を同時に整えようとすると、作るほうも疲れてしまいます。

食べられる量が少ない日は、「一度に食べる量」より「口にする回数」を増やすほうが現実的です。一回に一口か二口でも、時間をあけて何度か、のほうが総量は積み上がります。

Q2|水分は何を、どれくらい飲んでもらえばいいですか

1日1.2Lを目安にこまめに

まず量の目安から。厚生労働省が高齢者向けに出している熱中症対策の資料では、1日あたり1.2Lを目安に、こまめに水分をとることがすすめられています。これは暑い時期の平常時を想定した目安なので、発熱している日はこれより多めが必要になることもあります。持病や飲んでいる薬によっては水分量に制限がかかっている方もいるので、上乗せしていいかどうかは主治医に確認してください。

同じ資料では、高齢者は若い人にくらべて体内の水分量がもともと少ないことにも触れられています。のどの渇きも感じにくくなるため、「欲しがらないから足りている」とは考えないほうが安全です。

中身は、水やお茶にこだわらなくてかまいません。汁物、スープ、ゼリー飲料、果物、経口補水液。口をつけやすいものであれば、それが正解です。コップ一杯を一度に、より、少量を何度も。この配分のほうが、しんどい日には続きます。

水分だけで終わらせず、同じ一杯からエネルギーも入るものを選べると効率がよくなります。たとえば、かぼちゃと牛乳で作るスープはその一つです。

かぼちゃスープ

かぼちゃスープ|水分とエネルギーを一度にとりやすい一皿 ※画像はイメージです

材料1人分
西洋かぼちゃ 80g
たまねぎ 15g
普通牛乳 80g
有塩バター 5g
  1. かぼちゃは種とわたを除いて薄く切り、たまねぎも薄切りにする。

  2. バターで弱火にかけ、たまねぎが透き通るまで炒める。

  3. ひたる程度の水を加え、かぼちゃがくずれるほどやわらかくなるまで煮る。

  4. 粗熱を取って牛乳と合わせ、ミキサーで粒が残らないようにのばす。鍋に戻して温める。

◆ 栄養価(1人分の目安)

151.2kcal
エネルギー
145.2g
水分
4.3g
たんぱく質
0.2g
食塩相当量

※1食あたりの目安です

一杯で150kcalほど。全部飲みきれなくても、半分入れば水分もエネルギーも同時に進みます。温度は熱すぎず、少し冷ましてからのほうが飲みやすいことが多いです。

Q3|むせるようになりました。飲み物はそのままでいいですか

とろみは濃いほど安全でない

熱があるときは、ふだんはむせない方でも一時的にむせやすくなることがあります。体力が落ちて、飲み込みの動きが鈍くなるためです。

水やお茶のようにさらさらした液体は、実はいちばんむせやすい形です。のどを通るのが速く、飲み込む動作が追いつかないことがあります。ここで使うのが、とろみをつける方法です。

日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類では、とろみは3段階で示されています。

段階 目安
段階1 薄いとろみ すっと流れ落ちる。ストローでも吸える
段階2 中間のとろみ とろとろと流れる。ストローで吸うにはやや力がいる
段階3 濃いとろみ 形がある程度保たれ、流れにくい。ストローでは吸えない

★ 濃くすれば安全、ではありません

とろみは濃いほど安全というものではなく、濃すぎるとかえって飲み込みにくくなったり、口に残って水分そのものの量が減ってしまうことがあります。どの段階が合うかは、嚥下の状態を見て専門職が判断するところです。むせが続くようなら、自己判断で濃さを上げ下げせず、主治医・言語聴覚士・担当の管理栄養士に相談してください。

その場でできる工夫としては、ゼリー飲料やヨーグルトドリンクのように、もともとまとまりのある形のものを選ぶ方法もあります。姿勢もあわせて見ておきたいところで、寝たまま飲むより、体を起こしてあごを少し引いた姿勢のほうが安全です。

Q4|食べられそうになってきたら、何から戻せばいいですか

消化に負担の少ないものから

熱が下がって「少し食べたい」と言うようになったら、いきなり普段の献立に戻さず、消化に負担の少ないものから順に戻していきます。

段階 この時期に向くもの
まだ食欲が戻りきらない おかゆ、具をやわらかく煮た汁物、ポタージュ、ゼリー
少し食べられるようになった やわらかく煮た野菜、豆腐、卵料理、白身魚
いつもの量に近づいてきた 肉料理、油を使った料理、いつもの主菜へ戻す

このとき戻しておきたいのが、たんぱく質です。数日でも食事量が落ちると、体は不足分を筋肉から補おうとします。高齢の方は熱が下がったあとに体力が戻りきらないことがあり、その背景に「食べられなかった数日」があることは少なくありません。豆腐、卵、白身魚、乳製品のように、やわらかくて量が少なくてもたんぱく質が入るものから戻すと進みやすいです。

一度に量を増やすのが難しいときは、間食の時間を使って足す方法もあります。詳しくは食が細い高齢者のエネルギー確保|少量で栄養を摂る5つの工夫や高齢者の間食|栄養補給になるおやつの選び方でも触れています。

Q5|どのくらい続いたら、受診や相談を考えたらいいですか

変化を目印に早めの相談を

日数で線を引くよりも、変化のほうを目印にしてください。次のようなことがあれば、早めに連絡していい場面です。

◆ 早めに相談したい変化

  • 食事だけでなく、水分もほとんど受けつけない
  • 尿の回数や量が目に見えて減っている
  • ぐったりして、呼びかけへの反応がいつもと違う
  • むせこみが強く、飲み込むこと自体がつらそう
  • 熱が下がったのに、食事量が戻らない日が続いている

「これくらいで連絡したら迷惑ではないか」と迷われる方は多いのですが、様子を見すぎて動けなくなるより、早い段階で電話一本のほうが、結果として本人にも介護する側にも負担が軽くすみます。判断に迷う状態そのものが、相談していい理由になります。

おわりに

熱の出た日にできることは、そんなに多くありません。水分を切らさないこと。口にできたものがあれば、それを数えること。この2つが押さえられていれば、あとの品数は熱が下がってから整えれば間に合います。

食べてくれない日が続くと、作る側のほうが先に消耗します。全部を一人で抱えず、気になることは訪問看護やケアマネジャー、担当の管理栄養士にも預けながら進めてください。無理のない範囲で、少しずつ戻していけば大丈夫です。


免責事項・参考基準

本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供で、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。発熱時の水分量・食事内容・受診のタイミングは、基礎疾患・服薬内容・嚥下機能によって一人ひとり異なります。水分制限や食事形態の指示が出ている場合はそれが優先されます。食事や水分のとり方を変えるときは、必ず主治医および担当管理栄養士の指示を優先してください。

参考にした基準・出典の系統

出典系統 内容 記事内の使用箇所
厚生労働省「高齢者のための熱中症対策」リーフレット(令和4年夏版) 1日あたり1.2Lを目安にこまめな水分補給、高齢者は体内の水分量が少ないという記述 Q2(水分の量の目安)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」 とろみの3段階(薄い・中間・濃い)の定義 Q3(とろみの表)
日本食品標準成分表2020年版(八訂)文部科学省 かぼちゃスープの食材栄養値の根拠系統 栄養価グリッド

※基準は改訂で変わることがあります。最新は公式ページを確認してください。

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