「鍋の日だけ、うちは二つ作るんです」
冬の相談でときどき聞くのが、この話です。ご主人が減塩を言われてから、鍋の日は小さい土鍋をもう一つ出して、薄味のほうを別に煮ている。家族には市販の鍋つゆ、本人にはだしだけ。洗いものは倍、味見も倍で、正直しんどい。そんな相談でした。
鍋は本来、家族で一つの鍋を囲めるのが良さのはずです。鍋を分けなくても、塩分は分けられます。このお宅で変えたのは、鍋の煮方をひとつと、食卓に出すものをひとつ。それだけでした。何をどう見てそこに決めたのか、順に書いていきます。
数えてみると、塩の9割は手元のたれにありました

最初にやったのは、鍋一式の食塩量を分解して見ることでした。鶏もも肉と白菜、ねぎ、しいたけ、木綿豆腐を、味をつけないだしで煮る水炊きを例にします。
このとき、具材とだしの側にある食塩相当量は1人分で0.2gほど。ほとんど入っていません。いっぽう、つけだれに使うこいくちしょうゆを小さじ2弱(10g)とると、それだけで食塩1.4g前後が乗ります。1人分の合計1.6gのうち、9割近くが手元のたれの側にあった、ということです。
高血圧の方の食塩は1日6g未満が目標とされています(日本高血圧学会)。1食あたりに直せば2gくらい。つまり鍋そのものは、ほとんど気にしなくていい料理でした。分かれ目は具材でも量でもなく、鍋の中で味を決めてしまうか、あとから手元で足すかという順番のほうだったんです。
変えるのは1つ|鍋の中で味を決めない

そこでお願いしたのは、一つだけです。鍋の中では味を決めない。だしと具材だけで煮て、しょっぱさは各自が自分の小皿でつくる。
こうすると、同じ鍋から取り分けても、食べる人ごとに濃さが変わります。家族は普段どおりポン酢をたっぷり、本人は少なめ。作る側は一つの鍋を見ていればよくなります。市販の鍋つゆを使っていたご家庭では、ここが一番大きな変わり目でした。鍋つゆは最初から味が決まっているので、あとから薄める方法がありません。
味が物足りなくならないか、という心配はもっともです。鍋の側でできるのは、だしをきかせることと、ねぎやしいたけのように香りと甘みの出る具材を入れておくこと。この2つで、汁を飲まなくても具そのものがおいしくなります。
小皿の使い方|量を決めて、種類を選ぶ

鍋を薄いまま仕上げたら、あとは食卓の側です。ここでやることも2つだけにしました。
1つめは、たれをあらかじめ小皿に入れて出すこと。 しょうゆ差しやポン酢の瓶をそのまま置くと、どうしても継ぎ足しになります。小皿に入れておけば、それがその人の1食分の目安になります。
2つめは、たれの種類を選び直すこと。 同じ10gでも、中身の食塩量はずいぶん違います。
| つけだれ(10gあたり) | 食塩相当量の目安 |
|---|---|
| こいくちしょうゆ | 約1.4g |
| 減塩しょうゆ | 約0.8g |
| ぽん酢しょうゆ(市販品) | 約0.8g |
| ごまだれ | 約0.4g |
★ 味を足すのに、塩でなくていいもの
おろし大根、刻みねぎ、青じそ、七味、ゆずやすだちの搾り汁、少量のごま油。たれの量を減らしたぶんを、香りと酸味で埋めます。
減塩タイプのしょうゆには塩化カリウムが使われている商品があります。腎臓の数値で注意を受けている方は、成分表示を見て、主治医に確認してから使ってください。
家族には何も言わなくて大丈夫です。小皿とおろし大根が並んでいるだけの食卓なので、「今日から減塩だから」と宣言する必要はありません。人づきあいのある食卓で、ここは案外だいじなところだと思っています。
同じ鍋から取り分ける|水炊き

ここまでの形を、そのまま一品にするとこうなります。

水炊き|だしで煮て、味つけは各自の小皿で ※画像はイメージです
| 鶏もも肉(皮つき) | 80g |
| 白菜 | 80g |
| 長ねぎ | 20g |
| 生しいたけ | 15g |
| 木綿豆腐 | 50g |
| こいくちしょうゆ(つけだれ) | 10g(小さじ2弱) |
人数分は、この量をそのまま人数倍にして鍋に入れてください。つけだれのしょうゆだけは鍋に入れず、食卓で各自の小皿に取り分けます。
-
鶏もも肉は一口大に切る。白菜はざく切り、長ねぎは斜め切り、しいたけは薄切り、豆腐は角切りにする。
-
鍋に水と昆布を入れて火にかけ、沸く前に昆布を取り出す。ここでは塩・しょうゆを加えない。
-
鶏もも肉を入れて、あくを取りながら中火で煮る。火が通ったら白菜の芯、しいたけ、長ねぎの順に加える。
-
最後に豆腐を入れて温める。煮えたものから各自の器に取り分け、小皿のたれを少しつけて食べる。
◆ 栄養価(1人分の目安・つけだれを含む)
食塩相当量1.6gのうち1.4gはつけだれの分ですから、たれを半分にすれば、合計はおよそ0.9gまで下がります。同じ鍋、同じ具材のままで、です。なお腎臓の働きが下がっていると言われている方は、カリウムの摂り方に指示が出ていることがあります。野菜の多い鍋を続けるときは、量を主治医か担当の管理栄養士に確認してください。
〆と残った汁は、先に決めておく

やってみたあとで一つ出てきたのが、〆のことでした。鍋の汁を飲まずにいても、雑炊やうどんにすると、たれの落ちた汁ごと食べることになります。
ここは薄味の鍋のほうが有利です。もともと汁に塩をほとんど入れていないので、〆に回しても濃くはなりません。むしろ気をつけたいのは、〆のときに追加でしょうゆや塩を足してしまうこと。そこで味を決め直すと、せっかく手元で調整した意味が薄れます。〆に使う分の汁は、たれが混ざる前に別鍋へ少し取り分けておくと、そのまま使えます。
翌日に残った汁を煮物に流用するのも、薄味だからこそやりやすい方法です。味をつけていない汁は、翌日の献立に使い回せます。鶏と野菜の出たうまみが残っているので、大根やかぶを煮るときの煮汁にすると、加える調味料が少なくてすみます。
おわりに
鍋を二つ作っていたご家庭は、今は一つの土鍋と、人数分の小皿という形に落ち着いています。減らしたのは塩というより、作る人の手間のほうだったかもしれません。
全部の料理でこの形にできるわけではありません。ただ、鍋・しゃぶしゃぶ・湯豆腐のように「煮て、つけて食べる」料理は、家族と別々にしなくていい数少ない場面です。次の鍋の日に、小皿を人数分出すところからで十分だと思います。うまくいく日といかない日があって当たり前なので、そこはぼちぼちで。
免責事項・参考基準
本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供で、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。高血圧の食事療法は、その方の血圧の状態・合併症・腎機能・服薬内容によって目標量が変わります。特にカリウムやカリウム入り調味料の扱いは腎機能によって指示が異なります。食事の変更や栄養量の調整は、必ず主治医および担当管理栄養士の指示を優先してください。
参考にした基準・出典の系統
| 出典系統 | 内容 | 記事内の使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本高血圧学会 減塩・栄養委員会 | 高血圧の食塩制限は1日6g未満を推奨 | 「塩の9割は手元のたれ」節 |
| 日本人の食事摂取基準(2025年版)(厚生労働省) | 成人の食塩相当量の目標量(男性7.5g未満・女性6.5g未満/日) | 1日量の考え方の背景 |
| 日本食品標準成分表(文部科学省) | しょうゆ・減塩しょうゆ・ぽん酢しょうゆ・ごまだれの食塩相当量 | つけだれの比較表 |
※基準は改訂で変わることがあります。最新は公式ページを確認してください。

