「油は体に悪い」。そう思って食事から脂質を全部カットしようとした経験はありませんか。
実は、脂質の摂り方で大切なのは「量を減らす」より先に「どの種類を選ぶか」という話です。同じ油でも、脂質異常症に影響する油とそうでない油がある。その違いを知ることで、バターをオリーブ油に替える、青魚を週に何度か取り入れるなど、日々の選択が変わってきます。
今回は「飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸・トランス脂肪酸」の違いと、脂質異常症との関係をわかりやすく整理します。難しい用語が多い分野ですが、「冷蔵庫で固まるかどうか」という身近な見分け方から入っていきましょう。
◆ 記事のポイント
- 飽和脂肪酸とは何か、どんな食品に多いか
- 不飽和脂肪酸(一価・多価)の種類と特徴
- トランス脂肪酸の現状と日本の食卓での扱い方
- 日本人の食事摂取基準2025年版が示す飽和脂肪酸の目標量
- 実際に「選びたい油・減らしたい油」をどう区別するか
飽和脂肪酸とは? 冷蔵庫で固まる脂のこと

脂質の種類を語るとき、まず登場するのが「飽和脂肪酸」という言葉です。
覚えやすい目安は「常温や冷蔵庫で固まりやすい脂」。バター・ラード・牛脂・鶏の皮の脂などが典型です。ココナッツオイルも常温で白く固まりますね。これらに多く含まれるのが飽和脂肪酸です。
飽和脂肪酸を多く含む食品の例: バター・ラード・牛肉の脂身・豚の三枚肉・鶏皮・生クリーム・チーズ・ヤシ油(パーム油)・ ココナッツオイル等。
飽和脂肪酸の摂取が多いと、LDLコレステロール(いわゆる「悪玉」)が上がりやすくなることが複数の研究から示されています。だからこそ、脂質異常症の食事療法では真っ先に「飽和脂肪酸を減らす」が挙がるわけです。
ただし、飽和脂肪酸も体に必要な栄養素のひとつ。「ゼロにする」ではなく「とりすぎない」が正確な表現です。
飽和脂肪酸の目標量は1日の総エネルギーの7%以下

「とりすぎない」とはどのくらいでしょうか。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人における飽和脂肪酸の目標量を総エネルギーの7%以下と定めています(18歳以上の男女共通)。
2000kcalを摂る方を例に計算すると、飽和脂肪酸の上限は約15g(2000 × 0.07 ÷ 9kcal/g の計算より)が目安になります。脂質1gは9kcalなので少し計算が必要ですが、バターやラードなどの動物性油脂には飽和脂肪酸が特に多いため、使う量・頻度を意識することが大切です。
バタートーストに生クリームのコーヒー、外食でステーキやフライドチキンという食事が続くと、気づかないうちに目標量を超えていることがあります。
「選びたい油」は不飽和脂肪酸

飽和脂肪酸とは対照的に、常温で液体のままの油のほとんどが「不飽和脂肪酸」を多く含むものです。
不飽和脂肪酸には大きく2種類あります。
一価不飽和脂肪酸(オレイン酸など)
オリーブ油に豊富に含まれる「オレイン酸」が代表格。加熱安定性が高く、炒め物から生食まで幅広く使えます。LDLコレステロールへの影響が飽和脂肪酸より穏やかとされ、地中海食研究の文脈でよく取り上げられます。菜種油(キャノーラ油)もオレイン酸を比較的多く含む油のひとつです。
多価不飽和脂肪酸(リノール酸・EPA・DHAなど)
こちらは「n-6系」と「n-3系」に分かれます。
- n-6系(リノール酸): サラダ油・コーン油・大豆油に多い。日本の家庭では普通の炒め油でもn-6系を十分に摂れていることが多いです。
- n-3系(α-リノレン酸・EPA・DHA): えごま油・亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸と、青魚(さば・いわし・さんまなど)に含まれるEPAやDHAが代表格。日本動脈硬化学会の予防ガイドライン(2022年版)でも、n-3系脂肪酸の積極的な摂取が推奨されています。

さばの塩焼き|青魚のEPA・DHAは脂質異常症の食事に役立つ脂肪酸です ※画像はイメージです
★ 油の選び方をシンプルにまとめると
| 油の種類 | 主な含有脂肪酸 | 日常での使い方 |
|---|---|---|
| オリーブ油 | 一価不飽和(オレイン酸) | 炒め物・ドレッシング |
| キャノーラ油 | 一価不飽和(オレイン酸)多め | 揚げ物・炒め物 |
| えごま油・亜麻仁油 | n-3系(α-リノレン酸) | 加熱せず和え物・みそ汁に少量 |
| バター・ラード | 飽和脂肪酸 | 使う量・頻度を意識して減らす |
| ヤシ油(パーム油) | 飽和脂肪酸 | 市販の菓子・加工品に多く含有 |
ヤシ油(パーム油)は見えない飽和脂肪酸に注意
意識して「バターを減らした」のに飽和脂肪酸が多くなってしまうパターンが、実は加工食品です。
市販のビスケット・クッキー・インスタントラーメン・ファストフードのフライドポテト。これらに使われている「植物油脂」の多くはパーム油(ヤシ油)です。パーム油は植物性でも飽和脂肪酸を多く含み、常温で半固形になる性質があります。
原材料表示で「植物油脂」と書かれていても、飽和脂肪酸が少ないとは限りません。菓子類・加工食品の食べる量と頻度を見直すのも、飽和脂肪酸対策のひとつの視点です。
トランス脂肪酸についても知っておく

「体に悪い油」の話に必ずついてくるのがトランス脂肪酸です。これは液体の油を加工して固める(水素添加)工程でできる脂肪酸の一種です。
マーガリンやショートニングに多いと言われていましたが、日本国内ではメーカーの自主的な改善が進み、現在の市販マーガリン類はトランス脂肪酸を大幅に低減したものが多くなっています(農林水産省の情報による)。
ただし完全にゼロではないこと、輸入食品や一部の加工菓子に多く残る可能性もあります。LDLコレステロールを上げる方向に働くとされており、過剰な摂取は避けるのが無難です。
脂質異常症の食事療法として明示されているのは「トランス脂肪酸を避ける」(日本動脈硬化学会ガイドライン2022年版)。日常の食事ではバター・マーガリン・ショートニングを使った菓子・パンの過剰摂取を避けることが実践的な対応です。
食物繊維と合わせて考える
油の種類を変えるだけでなく、食物繊維の摂取もコレステロールの管理に関わります。
水溶性食物繊維には、消化管内でコレステロールの吸収を穏やかにする働きが期待されます。大麦・オーツ・海藻・きのこ類・大豆製品などが水溶性食物繊維を比較的多く含む食品です。
脂質異常症の方への食事指導では「食物繊維を増やす」も重要な柱のひとつ。大麦ご飯や海藻の味噌汁、きのこを添えた一皿など、日々の食卓で少しずつ増やせます。
また、「節約しながらコレステロール対策」を実践したい方には、「コレステロールが気になる人の節約レシピ|青魚と大豆で」の記事にさば缶・五目豆のレシピを掲載しています。
おわりに
脂質異常症の食事で大事なのは、「油を全部やめる」ではありません。
◆ 今日から意識したい3つのポイント
- 飽和脂肪酸(バター・ラード・肉の脂身・パーム油)を使いすぎない。「常温で固まる脂は少なめに」と覚えておく
- 調理油はオリーブ油・キャノーラ油を選ぶ。えごま油を少量プラスする習慣も
- 青魚(さば・いわし・さんまなど)を週に2〜3回取り入れてn-3系脂肪酸を補う
飽和脂肪酸の目標量は「総エネルギーの7%以下」(日本人の食事摂取基準2025年版)。2000kcalで約14〜15g以下が目安です。一度に大幅に変えるより、「今使っているバターをオリーブ油に置き換える」「週1〜2回のさば缶を習慣にする」という小さな積み重ねから始めるのが現実的です。
◆ 執筆者プロフィール
管理栄養士(国家資格)。総合病院の栄養管理部門に8年勤務し、入院患者約300名分の日次献立作成・栄養管理を担当。現在はパートの仕事と育児の合間に、生活習慣病の食事相談・献立作成に対応しています。
免責事項・参考基準
本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供で、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。脂質異常症の食事療法は、その方の病態・合併症・治療方針・服薬内容によって変わります。食事の変更前には、必ず主治医および担当管理栄養士の指示を優先してください。
参考にした基準・出典の系統
| 出典系統 | 内容 | 記事内の使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本人の食事摂取基準(2025年版)(厚生労働省) | 飽和脂肪酸の目標量(総エネルギーの7%以下、成人) | 「飽和脂肪酸の目標量」節 |
| 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」 | 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸・n-3系脂肪酸の推奨 | 「不飽和脂肪酸」節「トランス脂肪酸」節 |
| 農林水産省「トランス脂肪酸に関する情報」 | トランス脂肪酸の現状 | 「トランス脂肪酸」節 |
※基準は改訂で変わることがあります。最新は公式ページを確認してください。

