「今日は作る気力がない」。介護をしていると、そんな日が必ず出てきます。
やわらか食は下ごしらえから加熱時間まで手間がかかります。毎食ゼロから手作りを続けるのは、正直なところしんどい。かといって市販品や宅配食に頼ると、少し後ろめたい気持ちになる方もいるようです。
でも、手作り・市販・宅配は対立するものではなく、組み合わせて使うものです。この記事では、宅配のやわらか食を選ぶときに確認したいポイントと、無理のない使い分け方を紹介します。
◆ この記事でわかること
- 手作りの負担がどこに出やすいか
- やわらかさの段階(学会分類2021)の考え方
- 宅配のやわらか食を選ぶときの確認ポイント
- 全部を宅配にしない、無理のない組み合わせ方
- 宅配・市販に頼るときに落としがちな栄養
毎食の手作りが、どこで負担になるか

やわらか食を手作りするときの負担は、調理時間そのものより、実は別のところに出ることが多いです。
献立を考える時間。噛む力・飲み込む力に合わせて、毎日違うメニューを考え続けるのは想像以上に頭を使います。レパートリーがだんだん尽きてきて、同じ煮物ばかりが食卓に並ぶことも。それはそれで、少し申し訳ない気持ちになります。
下ごしらえの手間。皮をむく、繊維を断つ、細かく刻む。加熱もふつうの料理より長くかかります。仕事や他の家事の合間だと、こうした作業に腰を据えて向き合う時間を確保しづらいものです。
気力の波。介護は毎日続きます。体調が悪い日、気持ちが沈む日も、食事の準備は待ってくれません。そういう日にまで「手作りでなければ」と自分を追い込むと、続けること自体が難しくなります。
こうした負担は、頑張りが足りないから起きるのではありません。毎食すべてを一人で手作りしようとする構造そのものに無理があります。
やわらかさの段階は、自己判断で決めない

介護食を選ぶとき、まず知っておきたいのが「やわらかさの段階」という考え方です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会は「嚥下調整食学会分類2021」で、食事の形態をコードごとに整理しています。噛む力が落ちている方と、飲み込む力そのものが落ちている方とでは、必要な形態が違います。
市販品や宅配食のパッケージに、このコード表示があるかどうかは選ぶときの重要な手がかりになります。ただし、どの段階が本人に合っているかは、自己判断で決めないでください。主治医・言語聴覚士・担当の管理栄養士に確認したうえで選ぶのが安全です。
同じ「やわらか食」という言葉でも、段階が違えば適したものは変わります。手作りでも宅配でも、この確認を飛ばさないことが最初の一歩になります。
やわらか親子煮|手作りで少量から仕込める一品

やわらか親子煮(1人分)。鶏むね肉と卵をだしでやさしく煮て、少量でも作りやすい一皿。※画像はイメージです
手作りを完全にやめる必要はありません。少量でも作りやすいメニューを1つ持っておくと、宅配や市販品と組み合わせやすくなります。ここでは「やわらか親子煮」を紹介します。
| 鶏むね肉(皮つき・生) | 40g |
| 鶏卵(全卵・生) | 50g |
| たまねぎ | 30g |
| こいくちしょうゆ | 8g |
| 本みりん | 6g |
| かつおだし | 50g |
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鶏むね肉は皮を取り除き、そぎ切りにしてからさらに細かく刻む。たまねぎは薄切りにする。
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鍋にかつおだし・しょうゆ・みりんを入れて温め、たまねぎがやわらかくなるまで弱火でじっくり煮る。
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鶏むね肉を加え、色が変わって芯までやわらかくなるまで煮る。
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溶いた卵を回し入れ、半熟状にまとまったら火を止める。とろみがついてまとまりやすい状態になる。
◆ 栄養価(1人分の目安)
※1食あたりの目安です
食塩相当量が1.5gとやや高めなので、しょうゆを少し減らしてかつおだしを増やすと、味の物足りなさを抑えながら塩分を調整できます。作り置きにも向く一品なので、宅配や市販品を使う日の合間に、この1品だけ手作りするというやり方もできます。
宅配のやわらか食を選ぶときの確認ポイント

宅配のやわらか食を検討するとき、いくつか確認しておきたい点があります。価格やメニューの見た目だけで決めず、次のような視点で見比べてみてください。
★ 注文前にチェックしたいポイント
- やわらかさの段階表示があるか。学会分類のコードなど、本人の嚥下状態と照らし合わせられる表示があると選びやすい
- 1食あたりの価格を確認したか。価格帯はサービスによって幅があるので、注文前に必ず1食あたりの金額を見ておく
- 冷凍か冷蔵か。保存期間と、食べる直前の解凍・加熱の手間が変わる
- 保存スペースがあるか。冷凍タイプはまとめて届くと冷凍庫を圧迫しやすい
- 塩分・たんぱく質量が表示されているか。持病がある場合、この表示の有無が選択の分かれ目になる
- お試し・少量注文ができるか。いきなり大量に頼まず、本人の食べやすさを確認できる仕組みがあると安心
すべての条件を満たすサービスを一度に探そうとしなくても大丈夫です。本人の嚥下状態や持病に関わる項目(段階表示・塩分・たんぱく質)を優先し、あとは実際に試しながら合うものを見つけていく、というくらいの気持ちで十分です。
全部を宅配にしなくていい。組み合わせ方の例

宅配食というと「毎食すべて置き換える」イメージを持たれることがありますが、必ずしもそうする必要はありません。
主菜だけ宅配、副菜は手作り。手間のかかる主菜(肉・魚料理)を宅配に任せ、野菜の副菜だけ自分で用意する。加熱時間の長い主菜が省けるだけでも、負担はかなり軽くなります。
作れない日だけ頼る。通院の日、体調が悪い日だけ宅配食を使い、それ以外は手作りを続ける。毎日ではなく「困ったときの備え」として持っておく使い方です。
昼だけ宅配、朝夕は手作り。日中は仕事や他の用事で時間が取れない場合、昼食だけ宅配に置き換え、朝と夕はいつも通りに作る。
どの組み合わせが合うかは、介護の状況や本人の食べる量によって変わります。まずは週に1〜2食から試してみて、負担がどれだけ減るかを見てから、頻度を調整していく形が現実的です。
宅配・市販に頼るときに、落としがちな栄養
宅配や市販品を使うときに気をつけたいのが、エネルギーとたんぱく質の不足です。やわらかさを優先したメニューは、量が控えめに作られていることがあり、それだけでは1食に必要な栄養が足りないことがあります。
高齢者のたんぱく質は、フレイル予防の観点から1日に体重1kgあたり1.0〜1.2gが目安とされています(日本人の食事摂取基準2025年版)。体重50kgの方なら1日50〜60g、1食あたりでは15〜20gくらいの計算になります。パッケージにたんぱく質量の表示があると、この目安に届いているかを確かめられます。
主菜を宅配に頼った日は、汁物や小鉢を一品足して、エネルギーとたんぱく質を補う。水分摂取が減りがちな方には、汁物やゼリー飲料をあわせて用意する。野菜が不足しやすい場合は、冷凍野菜を使った副菜を一品加える。こうした「足す」発想を持っておくと、宅配任せでも栄養の偏りを防ぎやすくなります。
やわらかく仕上げる食材選びについては、高齢の親のやわらか食を安く|家計にやさしい介護食の工夫でも紹介しています。手作りの日の参考にしてみてください。間食での栄養補給は高齢者の間食|栄養補給になるおやつの選び方にまとめています。
「手を抜いた」と感じなくていい
宅配や市販品を使う日、少し罪悪感を覚える方は少なくありません。でも、一番大切なのは誰が作ったかではなく、本人が必要な量をきちんと食べられているかどうかです。
疲れた日に無理をして質の落ちた食事を出すより、宅配や市販品でしっかり食べてもらえるほうが、結果として本人のためになることもあります。介護は長く続きます。手作りにこだわりすぎて途中で倒れてしまっては、続けたいものも続けられません。
おわりに
手作りも、市販品も、宅配のやわらか食も、それぞれに向いている場面があります。全部を一人で背負おうとせず、無理のない範囲で組み合わせていく。今週は主菜だけ宅配に頼ってみる、通院の日だけ試してみる。そんな小さな一歩から始めてみてください。
免責事項・参考基準
本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供で、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。やわらかさの段階や食事形態の判断は、必ず主治医・言語聴覚士・担当管理栄養士の指示を優先してください。
| 出典系統 | 内容 | 記事内の使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本人の食事摂取基準(2025年版)(厚生労働省) | 高齢者のたんぱく質目標量・エネルギー | 「宅配・市販に頼るときに落としがちな栄養」節 |
| 嚥下調整食学会分類2021(日本摂食嚥下リハビリテーション学会) | 食事の形態分類(コード0〜4) | 「やわらかさの段階は自己判断で決めない」節・宅配確認ポイント節 |
※基準は改訂で変わることがあります。最新は公式ページを確認してください。

