「血糖値さえコントロールできれば、塩分はそこまで気にしなくていい」と思っていませんか。
これ、じつは少し危険な誤解です。
糖尿病の食事指導をしていると、塩分よりカロリーや糖質を気にされている方が多いという印象があります。もちろん血糖コントロールは大切。ただ、塩分が多い食生活を続けると、血糖値とは別のルートで体に影響が出てきます。この記事では、糖尿病と塩分の関係を整理し、毎日の食事で実践しやすい減塩の工夫を紹介します。
糖尿病で減塩が必要な理由は、血糖だけじゃない

糖尿病の食事療法というと、「カロリー制限」「糖質のとりすぎ注意」がまず頭に浮かぶ方が多いと思います。では、なぜ塩分まで気にしないといけないのか。
大きく3つの理由があります。
① 高血圧を起こしやすい
塩分を多くとると、血液中のナトリウムが増えて血圧が上がりやすくなります。糖尿病の方はもともと高血圧を合併しやすく、両方が重なると心臓や血管への負担が一気に増します。高血圧は糖尿病の3大合併症(網膜症・腎症・神経障害)をいずれも悪化させる要因のひとつです。
② 腎臓への影響
糖尿病の合併症として知られる糖尿病腎症は、腎臓の細い血管が傷む状態です。高血圧が続くと、そのダメージがさらに進みやすくなります。腎臓は余分なナトリウムを排泄する臓器でもあるため、腎機能が落ちてくると塩分が体にこもりやすくなる悪循環が生まれます。
③ 心臓・血管のリスク
糖尿病の方は、脳梗塞や心筋梗塞などの心血管病を発症するリスクが高いことがわかっています。塩分過多による高血圧はその主要なリスク因子のひとつ。血糖コントロールと減塩は、どちらか片方ではなく「セット」で取り組む意味があります。
血糖の薬を飲んでいても、塩分が多い食生活が続けば、体の別のところでじわじわと負担が積み上がっていきます。減塩を「また面倒な制限が増えた」ではなく、「合併症の予防策のひとつ」として捉えてもらえると、取り組む気持ちが少し変わるかもしれません。
1日の食塩目標はどれくらい?

日本人全体の食事の目安として、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、食塩相当量の目標量を男性で7.5g/日未満、女性で6.5g/日未満としています。
ただし、糖尿病の食事療法においては、さらに厳しめの目標が設定されています。日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」では、食塩摂取量は6g/日未満を目標とするとされています(高血圧の合併がない場合も同様)。日本高血圧学会のガイドライン(2019年)でも、高血圧患者に対して6g/日未満が推奨されており、糖尿病・高血圧を両方もつ方には特に重要な目標です。
「6gってどれくらい?」と思われる方が多いと思います。
ティースプーンに軽く1杯の塩が約5gほど。食塩6gはそれより少し多い量です。ところが、外食1食で軽く3〜4gに達することも珍しくありません。日本人の1日の平均食塩摂取量(令和元年 国民健康・栄養調査)は男性で約10.9g、女性で約9.3gで、目標とは大きな開きがあります。

出典: 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」「令和元年 国民健康・栄養調査」をもとに筆者作成
汁物は塩分の”隠れポイント”

食事の中で塩分が多い料理の代表格は、汁物です。
一般的な味噌汁1杯で、食塩相当量は1食あたり2g前後になることが多く、汁物だけで1日の目標の3分の1近くを使ってしまいます。
たとえば、実際の献立データで確認できる味噌汁の食塩相当量は以下のとおりです。
◆ 味噌汁1杯の食塩相当量の目安
| 味噌汁(たまねぎ・わかめ) | 約2.2g |
| 味噌汁(なす) | 約2.1g |
| 味噌汁(なめこ) | 約2.1g |
※1杯あたりの目安。具材や味噌の量で変わります。

なめこの味噌汁。1杯あたりの食塩相当量は約2.1g。だしを効かせると薄味でも満足感が出ます。※画像はイメージです
これを1日3食飲めば、汁物だけで6g超えも十分にありえます。
「汁を全部飲まない」だけで、かなりの塩分を減らせます。汁物は具だけ食べて、汁は半分残す。それだけで1杯あたり1g近く下げられます。
また、清汁(お吸い物)は薄口しょうゆを少量だけ使っただし汁が主体になるため、味噌汁より塩分を抑えやすいことがあります。だしをしっかりとった清汁は、薄めの味付けでも旨みを感じやすく、減塩の工夫として使いやすい選択肢のひとつです。
無理なく続ける減塩の工夫

急に薄味にしすぎると食欲が落ちて逆効果になることもあります。少しずつ味覚を慣らしていくのが長続きのコツ。現場でよく伝えていた工夫をまとめました。
だしを濃く、味つけは薄く
うま味が強いと、塩分が少なくても「ちゃんと味がついている」と感じやすくなります。昆布・かつお・干ししいたけなど、だしをきちんと引くと薄味でも満足感が出ます。
市販のだしパックを使っても構いません。大切なのは「だしの力で塩を補う」という発想の転換です。
調味料の使い方を変える
しょうゆはかけるのではなく「つける」に変えるだけで、使う量が半分近くになることがあります。冷奴やお刺身は、しょうゆに直接浸けず、箸先でちょんとつけて食べる方法が有効です。
塩分の少ない調味料に切り替えるのも手。減塩しょうゆや減塩味噌は一般品の約半分の食塩量のものが多く、日常使いに向いています。味の慣れには少し時間がかかりますが、2〜3週間ほどで感じ方が変わってくる方が多いです。
酸味や香味で補う
酢やレモン汁は、塩分を増やさずに料理にアクセントを出せます。さっぱりした酸味は、薄味でも「ちゃんと食べた」感覚につながりやすい。きゅうりの酢の物、かつおの土佐和えのような和え物系は、少ない塩でも味が締まります。
ねぎ・しょうが・みょうが・ごまなどの香味も同様です。薬味をたっぷり使うと、塩分が少なくても食欲がわく料理になります。
主食・主菜・汁物の塩分配分を意識する
1日6gという目標を3食に分けると、1食あたり2gが目安の上限です。ところが汁物だけで2gを超えることもある、というのは先に触れたとおり。
「汁物の日は、おかずの塩分を控えめにする」という調整が実は大事です。すべての料理を同時に薄くしようとすると疲れますが、一番塩分が多いもの(汁物や主菜のたれ・ソース)を優先的に絞るだけで、全体の塩分量は大きく変わります。
★ 今日から試せる減塩の3ステップ
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味噌汁の汁を半分残す(1杯あたり約1g減)
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しょうゆは「かける」から「つける」へ変える
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だしをしっかりとって、薄味でも旨みのある料理に仕上げる
減塩するときに気をつけたいこと

ひとつ注意したいのは、「塩分を減らす代わりに別の調味料を増やす」パターンです。
よくあるのが、ソース・ケチャップ・ポン酢・ドレッシングを多用してしまうケース。これらにも塩分が含まれています。調味料を変えるだけで安心せず、量にも気を配ることが必要です。
また、腎臓に影響が出ている方(糖尿病腎症が進んでいる方)は、カリウムの制限が必要になることがあります。野菜・果物・芋類はカリウムが多く、減塩を意識してこれらを大量に増やすことが逆効果になる場合も。食事の変更は主治医・担当管理栄養士に相談してから進めてください。
塩分制限の目標値も、病態・合併症・使っている薬によって個人差があります。「6g/日未満」はあくまで一般的な目安。自分の目標は、担当の医療チームに確認するのが確実です。
免責事項・参考基準
本記事は管理栄養士が執筆した一般的な情報提供であり、特定の個人への医療行為や栄養指導の代わりではありません。糖尿病の食事療法は、その方の病態・合併症・治療方針によって変わります。食事内容の変更や塩分制限の実施にあたっては、担当の主治医および管理栄養士の指示を優先してください。
参考にした基準・出典の系統
| 出典系統 | 内容 | 記事内の使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本人の食事摂取基準(2025年版)(厚生労働省) | 食塩相当量の目標量(男性7.5g/日未満・女性6.5g/日未満、18歳以上) | 「1日の食塩目標」節 |
| 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」(南江堂) | 糖尿病における食塩摂取量の目標(6g/日未満) | 「1日の食塩目標」節 |
| 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」 | 高血圧患者への食塩6g/日未満の推奨 | 「1日の食塩目標」節 |
| 令和元年 国民健康・栄養調査(厚生労働省) | 成人の食塩平均摂取量(男性約10.9g・女性約9.3g) | 「1日の食塩目標」節 |
※掲載している基準値・推奨量は発行時点のもので、改訂により変更されることがあります。最新情報は各機関の公式ページをご確認ください。


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